今はもうポスターなんてオールドメディアで、デジタルサイネージに取って代わられているけれど、たとえば昨年行われた国際コンペティション「世界ポスタートリエンナーレトヤマ2021」には6000点近いポスターが世界中から集まって、その数は前回の倍近い。デザイナーにとってポスターはまだまだ作りたい衝動に駆られる魅力的な媒体なんだと思う。
今も世界各国でさまざまなポスターコンペが開催されていて、最近は小さな画像を送るだけで出品は完了だし、出品料が無料のところが多い。昔は一枚のポスターを出品するために数十枚単位で印刷の発注をしていたから、安くても一作品につき10万円はかかっていたように思う。今はパソコンさえあれば、ほぼノーリスクで作品が出来てしまう。実はこれがすごいことだということが意外と認識されていない。いつも若いデザイナーや学生たちに言っているけれど、どんな業界でも世界の舞台で戦うのはたいへんなことで、いきなりワールドカップのピッチに立てたりはしないし、ウィンブルドンの本戦にも出られない。でもポスターコンペはデータを送るだけですでに土俵に上がっているので、世界のトップデザイナーが横にいたりするわけだ。メジャーリーグで大谷選手と対戦してるようなものだね。だからスタッフたちにはどんどん出品させてきた。「世界一になろう!」っていうのが自分の口グセ。それぞれのコンペで一位になるのはたったひとりだから簡単じゃないけれど、そこを目指すっていうのが楽しいわけで。いつも世界一をイメージしていれば、日本一がそんなにたいへんじゃないかも、なんて気になってくるし。とにかく「自分には無理」みたいな制限をはずして潜在意識を書き換えれば、想像以上の現実がやって来るってことを体験してほしくてね。作品を送ってみるとホントに想像を超えた結果が出るもので、金賞や銀賞や銅賞を何人もが受賞してる。入選だけなら数え切れないぐらい。そうやって得た自信が「自分は大丈夫なんだ」って勇気を与えてくれるから、もっと上を目指したくなるわけで。とはいえ、一番にならなきゃダメというわけじゃなくて、そこを意識して近づこうとすることに意味があるんだね。だいたい僕も日本一ですらないわけで。結果はどうあれ、そこに向かって作品を作ってるときが一番幸せな時間かもしれない。そんな時間が多くあるこの仕事(というより遊びに近いけど)が出来ている自分はホントに幸せだと思う。せっかくデザイナーになったなら、こんなワクワクすることに参加しない手はないと思うけどなあ。